ふろくと漫画についてゆるく語るブログ

主に80年代~90年代の少女漫画雑誌の付録を紹介するブログです。

『女ともだち』劇中劇『黄河の果てに』の元ネタ

元ネタと言うとパクリみたいに聞こえますが、もっと単純に「インスピレーションはこれかな?」という話です。

私は一条ゆかり先生の作品では『女ともだち』が一番好きです。『デザイナー』『5愛のルール』などの70年代のメロドラマも一条先生の真骨頂!という感じで好きですし、『有閑倶楽部』も何度読み返したか分からないくらい好きなのですが、リアルタイムでりぼんで読んでいたこともあり、一番思い入れがある作品は『女ともだち』です。

一条先生は泣く子も黙る少女漫画の巨匠です。萩尾望都竹宮惠子山岸凉子大島弓子池田理代子里中満智子大和和紀先生などなどの名だたる大家たちと同列に語られてしかるべき漫画家です。私がりぼんで一番好きな漫画は『ときめきトゥナイト』ですし、他にもたくさん好きなりぼん漫画家さんがいますが、りぼんの漫画家で誰が一番「凄い」か聞かれたら、一条ゆかり先生と即答します。

でも悲しいかな、りぼんは少女漫画雑誌なのです。90年代初頭のりぼんで連載されていた『女ともだち』は、お世辞にも女子小学生の読者に受け入れられていたとは言えないと思います。一条先生ご自身もこれについては言及なさっていて、この頃のりぼんの「子供っぽい」路線に自分は合わなかったと仰っています。カラーページもなかったし、当時リアだった自分も「こっそり掲載されているけど需要がよく分からない」漫画だと認識していました。この頃の読者が夢中になっていた連載作品は『ハンサムな彼女』『姫ちゃんのリボン』『天使なんかじゃない』で、それらの作品と比べて『女ともだち』は絵が古くてキャラがかわいくなかったし、内容が込み入ってて分かりにくかったんです。

更に酷いことを言ってしまうと、『女ともだち』第二部が連載再開された1991年6月号を私はリアルタイムで読んでいるのですが、「えっ、巻頭カラーなの? 人気ないのに?!」と失礼極まりないことを考えたのを今でもはっきりと覚えています。

自分でも恥ずかしいくらい酷いことを書いてしまいました…(笑)。でも『女ともだち』を貶すつもりは全くないんです。だって『女ともだち』はそれでも抜群に面白かったから。一条先生ほどの巨匠が面白くない漫画を描くわけないですもん。漫画の単行本を中々買えなかった私は、『女ともだち』を毎号切り取って保管していました。他にそうしていたのは谷川史子先生の作品と、たまに掲載されていた『有閑倶楽部』くらいなので、子供の頃の自分がどれほど『女ともだち』を面白く思っていたか、何度も読み返したいと思っていたかが分かります。「なんで?」と思った巻頭カラーもちゃんと取ってあります!

カラー1ページ目。扉絵は一条先生の50周年記念イラスト集に収録されています。

第一部二話の扉絵もあったのでご紹介。

大人になった今、一条先生の少女漫画家としての経歴を把握して『女ともだち』を読み返すと、やっぱりちゃんと「面白い」と思うのですが、それ以上に一条先生の技量に圧倒されます。私が『女ともだち』で一番印象に残っていて、事あるごとに思い出す場面はここです(連載第二話より引用)。

ドライですよね。主人公が自分を完全に客観視している。70年代の一条先生のウェットなメロドラマを読んでいる今だからこそ分かるのは、一条先生の時代に合わせる力量が半端ない、ということです。ここは主人公の菜乃が「ずっと叔母だと思っていた人が実は母親だった、両親だと思っていた人達は叔母夫婦だったし、父だと思っていた人とは血が繋がっていなかった」と知って家を飛び出すシーンです。設定だけだとすごくメロドラマですよね! 70年代の名作『デザイナー』の主人公・亜美がこんなことを知ったら精神に異常をきたしてます(笑)。というか、『デザイナー』は主人公の二人が自身の出生の秘密を知って破滅する話です。でも『女ともだち』は違っていて、菜乃は事態を受け止め、頭の中で自分を客観視する、そんなキャラなんです。とても90年代的です。

そして「小説だったらもっとドラマチックになったり 誰かが優しく助けてくれたりするのに」とあるのは漫画にも当てはまり、一条先生がご自身の漫画や少女漫画全般を客観視している一文だと思います。これが『デザイナー』だったら亜美はショックのあまり気を失い、倒れるところをヒーローに抱きとめられる、そんな展開になっていた筈です。しかし1990年の漫画はそうならないわけです。

この回が掲載されたりぼん1990年7月号には『ハンサムな彼女』番外編も掲載されており、そこで主役の収は高校生でありながらボディコンの美人大学生とドライな恋愛関係になっています(それも少女漫画としてどうかと思うけど・笑)。更に翌年の5月号には『ママレード・ボーイ』の連載が始まり、とんでもない家族構成をドライに描写し大人気を博します。『女ともだち』のお話や登場人物はそんな時代や少女漫画のトレンドを完全に俯瞰して描かれており、さすが巨匠・一条ゆかり先生だ、と読み返す度に思うわけです。だからこそずっと少女・女性漫画の第一線で活躍し、あれだけの数の名作を生み出してこれたんですよね。尊敬してもしきれません。

その他にも女同士の友情の描写や、仕事に生きる大人の女性の描写もすごいです。名作です!

一条先生および『女ともだち』が好きすぎて前置きが長くなってしまった…『黄河の果てに』に話を戻します。『黄河の果てに』は劇中でベストセラーになった時代小説、そして主人公が女優デビューを果たすこととなる映画のタイトルです。内容は満洲国の日本人富豪の甘やかされて育ったお嬢様が、戦争に巻き込まれたり色々大変な目にあったりして(適当な説明だな~笑)、最初は大嫌いだった男性と恋に落ちて日本へ逃げる、という感じだと思います。

で、これの元ネタがなにかと言うと、『風と共に去りぬ』なんじゃないかな? 最近『風と共に去りぬ』の続編のドラマを観ていて、「後ろ暗いことをやってお金持ちになった親に甘やかされて育って、ルックスが良くて周りにちやほやされて自分が世界の中心だと思い込んでる性格の悪いお嬢様」というスカーレット・オハラと、「主人公の家は戦争に巻き込まれて没落する」「最初はムカつくと思ってた男と恋に落ちる」という展開が『黄河の果てに』に似てる! と思ったんです。そして一条先生が『りぼんの付録 全部カタログ』のインタビューで「わたしの好きな戦争映画『風と共に去りぬ』」と仰っていたのを思い出して、これは間違いないんじゃないかな、と。勿論一条先生はここから更にお話に肉付けをして、『女ともだち』の劇中で語られる『黄河の果てに』のクライマックスは『風と共に去りぬ』とはまた違うものですが。

どっちにしても『黄河の果てに』は漫画化や映画化して欲しいですよね~! 絶対名作です。ただ映画化したとして、誰が主人公の母親の役を演じてもファンは「西願搖子には及ばない…!」と苦情を言うと思います(笑)。